-----  THE PIANO


    



もっと強く、強く、強く。
指をしならせ、叩き続ける。

低音が唸り、びぃんと体を震わせる。
高音がキンと脳に突き刺さる。

ひとつの木の板が、
幾つも連なって、
僕の心を揺さぶる瞬間を作り上げる。

ただ指を動かしてるだけ。
そうかもしれない。
引き続けることでの馴れ合いと、
そこから生じる余裕とが、
僕にいろいろ考えさせる。


壊れるんじゃないかって考えながら作曲したと思う?
そんなことを心配する音楽家がいると思う?

くだらないわ。集中しなさい。

少なくともモーツァルトは壊れたとしても気にも留めないわよ。


そんな言葉が、ふっと耳元を通り過ぎる。


お母さんのエゴだったとしても、それはアナタが弾く為のモチベーションにはならない。
理由にはならないわ。
関係ないでしょう。


そう、確かに今、この一瞬にはそんなこと関係ない。

もっと強く、強く、強く。

断続的な、単調なリズムがスリルと緊張感を与える。

もっと強く、強く、強く。

次第に高まっていく高揚感。

もっと強く、強く、強く。

興奮していく僕の脳。

もっと強く、強く、強く。

もっと強く、強く、強く。


そのとき僕は真っ白な世界にいた。




                                - 終 -


back    index    next


Copyright (C) 2003 Mutsu Kisaka All Rights Reserved.